日本の卓球界の現状
現在開催されているアジア大会では、競泳やバドミントン、フェンシングなどさまざまな競技で日本人選手の活躍が目立っている。日本オリンピック委員会が重要な大会と位置づけていることもあり、数多くの競技が現時点で主力とされている選手を代表として送り込んでいる。
その中で、様相を異にする競技もある。例えば柔道や体操、卓球である。
柔道と体操はアジア大会のあとに世界選手権を控えていることから派遣を見送った。そして卓球も男子の水谷隼、張本智和、丹羽孝希、吉村真晴、女子の石川佳純、伊藤、平野美宇、早田ひなといった選手たちがアジア大会を欠場した。
その背景は、世界選手権を控える柔道や体操とはやや異なる。8月21日に開幕したワールドツアーの1大会、チェコオープンへの参加を選手たちが優先したのが理由だ。過去のアジア大会には主力選手が出場してきたことをあわせて考えても、異例と言える。
そこには、現在の日本卓球界の状況がかかわっている。
この数年の国際大会での好成績が物語るように、日本は男子、女子ともに個々に成長を見せてきた。
それは日本卓球界のレベルアップをもたらし、世界での地位の向上、レベルも向上してきたことを意味するが、選手の立場からすれば、別の側面が浮かび上がる。代表争いの激化である。
中でも熾烈を極めるのは、五輪代表。なぜなら個人戦には2名しか出られないからだ。
卓球は男女それぞれ、世界ランキングの上位2名を個人戦の代表に選ぶ方針を打ち出している。その基準となるのは、2020年1月時点での世界ランキングである。そのとき、日本勢で2位以内にいなければ個人戦の代表にはなれないが、ランキングはそれまでの1年間でポイントの高い8大会での合計によって算出される。
だから実際のところは、現段階でランキングを上げたとしても五輪代表の競争には直結しない。
それでもランキングにこだわるのは、ランキングの順位を高めておくことで、先々の国際大会でのシードを有利にする狙いがある。常に競争相手より上のランキングにいることで、心理的に優位に立ちたいという思いもうかがえる。
チェコオープンは優勝すると1800ポイント加算されるのに対し、アジア大会は1050ポイントしかない。しかもチェコオープンならベスト32にあたる本戦の1回戦負けでも900ポイント、ベスト16なら1080ポイントを得られる。ランキングを上げることを考えれば、そちらを優先すべきであることは一目瞭然だ。
むろんオリンピック出場には、個人戦のみならず団体戦のための1枠もある。
だが、選手としてはまず個人戦出場を目標にするのは当然だろう。ロンドンやリオデジャネイロ五輪でも、個人戦2枠をめぐる戦いは激しかった。ロンドン五輪の団体戦代表となった平野早矢香は「(2枠入りを目指し)一時期はお互いに話もしませんでした」と振り返っている。
最新の世界ランキングを見ると(8月3日付)日本男子トップは6位の張本、そして11位に丹羽、12位に水谷、19位に松平健太、27位に吉村がつける。女子は4位の石川を筆頭に、6位に伊藤、9位に平野、14位に佐藤瞳、16位に早田……と続く。このランキングにも競争の激しさが表れている。
選手たちの意向を尊重した結果。
そうした現状と、オリンピックをにらんでの選手たちの意向を尊重した結果が、今回のアジア大会における卓球のメンバー構成となっている。
冒頭の伊藤の言葉通り、2020年の東京五輪代表を目指し、切磋琢磨しながら激しい争いをこれまでも続けてきた。それはさらに加速していこうとしている。
男女の誰もが悲願とするのは打倒中国。でもそれを果たすためには、まず国内のライバルに勝って戦いの場に立たなければならない。
国内外を転戦しつつ、1大会1大会、どれも気を抜けない過酷な競争の中、目標へと進んでいく。
(gooニュースから参照)